なぜクラウドなのか、データ保存の利用とその将来性について考える

データ分析
企業のITシステムは、これまで自前で機器やソフトウェアを調達し、その企業オリジナルのシステムを構築することが主流でした。業務に合ったシステムが作成でき、セキュリティ上でも企業内部にデータが蓄積されるので安全性も確保しやすいというメリットがありました。
しかし情報は日々増える一方なため、ビジネスの現状に合わせてシステムも大容量のデータに耐えられるように変化していく必要があります。そこで、コンピュータの機能をサービスとして、目的に合わせてフレキシブルに利用することが主流になってきました。これがクラウドコンピューティングです。そのもっとも基本的なサービスのひとつ、データ保管の役割である「クラウドデータ」の活用について見てみましょう。
クラウドコンピューティングとクラウドへのデータ保存
最近では、「クラウドコンピューティング」という言葉をニュースや経済誌などで日常的に耳にするようになりました。改めて、その仕組みと利用のメリットについて整理してみましょう。
クラウドコンピューティング、その現在と今後
他社が提供する機材やシステムを含めたインターネット上のコンピュータシステムを利用することを、クラウンドコンピューティングと定義します。
例えば、「SaaS(サーズ:Software as a Service)」はインターネット経由でアプリケーションソフトウェアを提供するサービスです。グーグルのGmailもこのSaaSに該当します。「PaaS(パース:Platform as a Service)」は、インターネット経由で企業のソフトウェア開発担当者にOS(オペレーティングシステム)などの開発環境を提供するサービスです。「IaaS(イアース:Infrastructure as a Service)」は今回のテーマである、データの保存に対するストレージ(外部記憶装置)やサーバなどコンピュータのハードウェア資産の利用に関するサービスを指します。
ソフトウェアやストレージなどの機材は、常に最新のもの更新しておくのがベストです。しかし、そのすべてを自前で調達するのは資金や手間の面で限界があります。ビジネスの変化は速く、構築の時間や手間を考えると、借りる方がメリットも大きいのです。サービスとして利用できるクラウドコンピューティングは、スピード経営が求められる現在にマッチした仕組みであると評価できます。
クラウドでデータを保管する優位性
書類・データの種類によって、法律で定められた保存期間は異なります。企業の会計帳簿や事業に関する重要な書類は会社法上で10年、取引帳簿や領収書などは法人税法上で7年と、それぞれ保存期間が定められています。
いずれにせよ、いつ起こるかわからない訴訟問題などに対して、取引経緯も含めたデータを長期保存しておかなければならないのが現状です。さらに近年はIoT(モノのインターネット)によるデータの収集、企業内の既存データを経営やマーケティングに活用するBI(ビジネスインテリジェンス)やビッグデータ解析が注目され、データの扱いの優劣がビジネスをも左右する時代になってきました。
そうなると、集まったデータはいつでも使えるように保存しておくことになります。そこで、クラウドコンピューティングの出番となるわけです。「買う」より「借りる」ほうがデータの時期的な変動に合わせレンタルする容量を変えられるので、ピークに合わせてストレージを用意しなければならないような無駄もありません。
クラウドデータへの移行、利用上の注意点
クラウドコンピューティングは、サービス会社のシステムと機材を利用することになりますが、当然そのサービス会社の信頼性が問われることになります。クラウド利用が高まるにつれ、新しいサービス企業も続々と誕生しています。利便性の向上や利用料の低下も進んできましたが、その結果、保存するデータの安全性が損なわれてしまうようなことがないように注意したいものです。
クラウドサービス事業者を評価する
そこでサービス事業者の信頼性や安全性を吟味しなければなりませんが、日本データセンター協会がクラウド活用に関わるリスクとして、調査会社であるガートナーの「7つのセキュリティ・リスク」を引用していますのでご紹介します。
1. 従業員のアクセス管理(目的や機密度にあったアクセス権限等の管理)
2. 外部監査などからのチェックの受け入れ状況(第三者によるセキュリティチェックの状況)
3. データの保管場所とその保護規制(建物等の物理的な故障や外部からの侵入者に対する措置)
4. データの隔離方法(同上)
5. 万が一の際のデータの復旧体制とその期間(データのバックアップ体制)
6. 利用者からの調査に対する受け入れ姿勢(利用者の疑問等に誠意をもって答えているか)
7. そのサービス会社の事業の継続性(会社自体の経営の健全性と継続措置)
これらのリスクを避けるためにサービス業者との間に専用回線を敷いたり、利用する設備の一部分を占有した状態にしたりする「プライベートクラウド」もありますが、利用者は大手企業や機密性が高い業務などに限定され、システムの共用が前提の「パブリッククラウド」が利用者の多くを占めているのが現状です。パブリック、プライベートのどちらのサービスも上記項目を利用者がみずから調査し、評価することが求められます。
クラウドデータ管理に将来性がある理由
冒頭でも述べましたが、「データを制する会社がビジネスを制する」時代です。クラウドデータによる管理との関係性を考えてみましょう。
IoT、ビッグデータ、モバイルコンピューティング、そしてBIへの期待の高まり
コーポレート・ガバナンス上、そして企業が永続的に活動できる事業継続計画(Business continuity planning、BCP)のためにも、データの管理とその保全の重要度は増しています。IoTはインターネットを介して収集したデータをもとに工場などの機械の動きを監視したり最適にコントロールしたりする仕組みですが、ウェアラブル端末が普及すれば、サービス業なども含めた多くの業種・業態でデータを大量に扱うようになります。サービスや営業スタッフがモバイルコンピューターを使い、出先でデータの確認や入力ができることでビジネスの効率が上がりますが、これも扱うデータ量の増加を意味します。
企業内のデータや有用な情報を共有するナレッジマネジメントや、企業のあらゆるデータを収集・蓄積・分析することで経営上の意思決定に役立てるBIでは、数値化されていない文書データや画像・動画データなどの非構造化データの活用にまでデータの対象を広げています。ここでも膨大なデータの保管が求められることになります。
近年注目されてきたAI(人工知能)は、そのディープラーニング(深層学習)機能から、人間には不可能なデータ量で解析し、答えを提示しながらさらに進化することができます。企業の人事にもAIを活用する例が出てきており、AIは科学技術の計算をするためだけの機械ではありません。どの企業もAIとビッグデータを駆使する時代になってきているのです。
「データを制するものがビジネスを制する」時代、データの賢い保存の方法も同時に進めるのがポイントとなり、それがクラウドデータの運用となるわけです。
参考:
・クラウドコンピューティングとは何ですか?|独立行政法人中小企業基盤整備機構
・ データセンターをとりまく昨今の市場環境|特定非営利活動法人日本データセンター協会